ごあいさつ

小山 清よりのメッセージ

国語科の授業に、分かりやすくて面白い「上」の授業と、一見分かりやすいが面白くない「並」の授業とがあることに気づいたのは、30歳のころであった。両者の違いが、教材に鋭く切り込んで感動に迫るか、初めから順々に進んであらすじをたどるかに起因することを知った私は、以後、ひたすらに授業力の習練に励み、「上」の授業を目ざしたのである。そして、その授業記録を集めて、昭和54年に出版した、『国語科教育の理論と実践』第1集が、全国大学国語教育学会から、第7回石井賞を受賞することができたのは、光栄であった。
 私は、授賞式に出席するために上京する新幹線の中で、向後、1年に1冊のペースで、授業記録集を発行しようと、ひそかに心に期したのである。途中、校長室の仕事を引き受けたため、計画どおりには運ばなかったが、第16集まで出版を重ねたのは上出来であったろう。そして、それら16集に収めた、大小合わせて300編を越える授業記録は、いずれも実践の場から生まれたものであった。現場にあって、毎日の授業に取り組み、模索と苦闘とを続けている先生方から好評を得たのは、「上」の授業展開を会得できるためであったにちがいない。

小山清